心筋症とは?
心筋症とは心臓の筋肉自体の病気があり心臓の動きが悪くなったり、不整脈が出現したりする病態です。
A)特発性心筋症(心機能障害を伴う心筋疾患)
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- 拡張型心筋症
- 肥大型心筋症
- 拘束型心筋症
- 不整脈原性右室心筋症
- 分類不能型心筋症
B)特定心筋症、二次性心筋症(特定の心臓疾患や全身疾患に続発する心筋疾患)
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- 虚血性心筋症
- 弁膜症性心筋症
- 高血圧性心筋症
- 炎症性心筋症(心筋炎)
- 代謝性心筋症
- 全身性系統的疾患
- 筋ジストロフィー
- 中毒性疾患
- 周産期性心筋症
具体的な心筋症について
上記にある、心臓の筋肉が障害される心筋症は多数あります。具体的にみていきます。
拡張型心筋症
心臓、特に左心室の筋肉の収縮する力が低下する病態です。収縮力が低下して血液の拍出量が低下するため、それを補うために左心室が徐々に拡大します。他の心筋症や虚血性心筋症などでも左室の収縮能が低下すれば結果として左心室が拡大しますのでエコー所見などだけではすぐに判断はできません。二次性心筋症など他の心筋症をしっかりと否定をした上でそれでも明らかな原因がない場合に、除外診断として拡張型心筋症という診断名がつきます。
この他の疾患を否定することがとても大事になりますので、診断のためには特殊な項目の採血やMRI、カテーテル、心筋生検などが必要になります。
子供からお年寄りまで幅広い年齢層に発症し、男女比では男性に多い傾向が見られます。原因は現時点でははっきりとは分かっていません。約5%の方に家族内発症を認めており、遺伝性の原因と非遺伝性の原因があると考えられています。
症状
左室の機能が低下することで、ごく初期はエコーでの心機能低下、左室拡大のみで無症状ですが、進行すると左心不全症状、具体的には労作時の息切れ、むくみなどを認め、ひどくなると安静時の呼吸苦などを認めることがあります。
検査・診断
不整脈としては心室頻拍が出現する血意識消失や突然死のリスクになりますのでホルター心電図を行い不整脈リスクの評価が必要になります。
治療
治療としては心血管保護薬が主体になります。現在心血管保護薬としては主に4種類、β遮断薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、SGLT2阻害薬があります。左室機能や心不全の状態によって効果は異なるため、状態に応じて判断します。
経過は?
経過としては慢性の進行性になりますが、発見時期、治療開始時期、また個々によって進行具合は異なります。初期にしっかり治療が開始となっていれば、心不全を併発せずに経過することもありますが、進行して発見される方もおり、治療反応性が乏しい場合には心臓移植が必要になることもあります。日本における心臓移植適応例の60〜70%が拡張型心筋症ですが、拡張型心筋症の予後が不良というわけではなく、原因不明の心機能低下の方が多いということを表しています。拡張型心筋症と診断されてとても不安だという方は一度ご連絡ください。多くの拡張型心筋症の診断、治療経験、また心臓移植治療経験もありますので、現在の診断が合っているのか、治療方針が合っているのか、今後どうなるのかご不安なこともご相談に乗らせていただきます。
肥大型心筋症
左心室または右心室の心筋肥大が生じます。収縮力は一般的には保たれていますが、心室の筋肉が分厚くなってしまうため柔軟性が失われて固くなり、広がりにくくなることを意味する拡張障害を生じてきます。肥大した部分で内腔が狭くなり、左心室が収縮した際にその部分で圧較差が30mmHg以上生じる時は「閉塞性」肥大型心筋症と呼びます。一般的に圧較差が生じる部分としては収縮期に左心室から血液が出ていく部位である左室流出路が多くなります。圧較差の生じていない場合を「非閉塞性肥大型心筋症」と呼びます。
肥大は通常不均一であることが特徴的であり、肥大する部位によって名称は変わり心尖部であれば心尖部肥大型心筋症、中部であれば心室中部閉塞型心筋症などがあります。
また肥大型心筋症も最初のうちは心筋が肥大しているだけですが、時間の経過とともに心筋が疲れてきて収縮力が低下してくることがあります。その場合は拡張型心筋症のように徐々に心筋が薄くなってきて、左心室が拡大してきます。拡張相という進行した状態になるため「拡張相肥大型心筋症」といいます。
検査・診断
肥大型心筋症は心エコーや心臓MRI、心筋生検などで診断を行います。心エコーでは心筋の肥厚や非対称性中隔肥大(ASH)がみられます。造影剤を用いたMRIでは心筋遅延造影(LGE)のパターンをみて診断します。心筋生検では錯綜配列と呼ばれる特徴的な所見が認められますが、心筋生検は侵襲が高くなるため他の検査で診断が出来るようでしたら他の低い検査が優先になります。とても重要なところですが、左室が肥大する病態として高血圧性心疾患、アミロイドーシス、ファブリー病などがあり、これらはとても似ている所見であり、MRIや心筋生検を行っていない場合には、診断が混同されていることがあります。治療も大事ですが、診断をしっかりとつけることがまず重要です。
不整脈原生右室心筋症
右心室の心筋が脂肪に置き換わってしまうことで、右室の収縮力が低下、右室の拡大を認めるようになります。その弱った右室を起源とする心室頻拍が出現するようになり、突然死を生じうる進行性の心筋症になります。右心室が主体のことが多いですが、左心室にも病変が及ぶことがあります。
心室頻拍がある場合にはアブレーションや、心停止、心室細動を生じるようでしたら突然死予防のために植込み型除細動器(ICD)植え込みを行う場合があります。
サルコイドーシス
サルコイドーシスは原因がまだはっきりとは分かっていない、多臓器に生じる疾患です。心臓、肺、眼、神経、腎臓などで罹患します。病因となる抗原によって免疫反応が起こって、肉芽腫が形成されて発症すると考えられています。特に心臓のサルコイドーシスは予後に関与します。
心臓サルコイドーシスの特徴として
主徴候
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- 高度房室ブロックまたは持続性心室頻拍、心室細動などの致死性心室性不整脈
- 心室中隔基部の菲薄化または心室壁の形態異常(心室瘤、中隔基部以外の菲薄化、心室壁の局所的肥厚)
- 左室収縮不全(左室駆出率50%未満)または局所的な心室壁の運動異常
- FDG PETでの心臓への異常集積(ガリウムシンチを以前は行っていましたがPETの方が信頼性は高いため最近はガリウムシンチを行うことは少なくなっています)
- ガドリニウム造影MRIにおける心筋の遅延造影所見
副徴候
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- 心電図で心室性不整脈(非持続性心室頻拍、多源性あるいは頻発する心室期外収縮)、脚ブロック、軸変位、異常Q波のいずれかの所見
- 心筋シンチグラフィにおける局所欠損
- 心筋生検にて単核細胞浸潤および中等度以上の心筋間質の線維化
があります。
心臓サルコイドーシスには全身性のサルコイドーシスがあってその中の一部として心臓の所見がある場合と、心臓のみに限局して発生する心臓限局性サルコイドーシスがあります。
また診断方法としては組織診断と臨床診断があります。心筋生検を行って乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫を認めた場合にはそれだけで心臓サルコイドーシスと確定できる組織診断となります。臨床診断は上記徴候を検討して診断することになります。
アミロイドーシス
線維構造をもつタンパク質であるアミロイドが全身の臓器に沈着することで機能障害を生じる疾患群になります。
心臓に沈着すると左室肥大、心臓が固くなることでの拘束性障害、電気的に脆弱になることで房室ブロックなどの伝導障害、洞性徐脈、また心電図ではR波の立ち上がりが弱くなってしまい全体的に低電位となったりします。また心機能が低下したり、拘束性障害の結果として息切れやむくみなどの心不全症状が出ることがあります。少量のβ遮断薬でも徐脈となるため使用困難となったり、またACE阻害薬やARB、ARNIなどの降圧薬を使用すると少量でも血圧作用が強く出過ぎてしまい低血圧症状を来すことがあります。
全身臓器に沈着するため他の臓器では、手の靱帯に沈着すると正中神経が圧迫されることで小指以外がジンジンと痺れる手根管症候群を発症します。腎臓に沈着すると蛋白尿が出たり腎機能が悪くなります。腸管に沈着すると食欲不振、下痢などを生じます。末梢神経に沈着すると手足の痺れや麻痺などのニューロパチー症状が出ます。
免疫グロブリン軽鎖由来のアミロイドが全身に沈着するものではALアミロイドーシスと多発性骨髄腫に続発するものがあります。また近年治療法が出てきたものとしてトランスサイレチン型心アミロイドーシスがあります。トランスサイレチンアミロイド(ATTR)が心筋に沈着することで発症します。トランスサイレチンとはタンパク質の一種ですが、通常は4つ合体した4量体を形成して機能を発揮します。しかし、この4量体が不安定になり1つずつの単量体になりやすくなります。単量体となったものはミスフォールディングといって汚く折り畳まれてしまい、それが各臓器に集まって溜まり込んで悪さをします。遺伝性のあるものでは熊本や長野県に多いことがわかっています。トランスサイレチンの安定化剤や遺伝子治療などが有効とされるため早期発見が重要になります。