家族性高コレステロール血症とは?
家族性高コレステロール血症(FH : familial hypercholesterolaemia)とは、高LDLコレステロール(LDL-C)、早発性冠動脈疾患、腱・皮膚黄色腫を3主徴とする常染色体顕性(優性)遺伝です。常染色体というのは両親から一つずつもらって1セットになる遺伝子のことで、そのうち片方に家族性高コレステロール血症の遺伝子変異があるとそれが発現することを顕性遺伝といいます。半分だけ遺伝子変異があることをヘテロ接合体、ご両親二人とも家族性高コレステロール血症で1/2ずつ遺伝子変異を受け継いで、1セット両方とも遺伝子変異がある場合をホモ接合体と呼びます。
日本で約300人に1人程度、冠動脈疾患患者の30人に1人、早発性冠動脈疾患や重症高LDL-C血症の肩の15人に1人程度とされています。また、すでに高LDLコレステロール血症として治療を受けている患者様の約8.5%も家族性高コレステロール血症とされています。
家族性高コレステロール血症ではそうではない方と比較して冠動脈疾患のリスクが10〜20倍になるとされています。スタチンと呼ばれるLDLコレステロールを下げる薬が出る前はヘテロ接合体では平均寿命が63歳でしたがスタチンが開始となってからは76歳まで、またホモ接合体の方に関しても28歳から59歳まで寿命が延びました。
LDLコレステロール積算値と心血管疾患発症年齢の関係を示したグラフですが、ヘテロ接合体家族性高コレステロール血症の患者様では無介入では約35歳で心血管疾患の閾値を超えており、さらに喫煙、高血圧、糖尿病、高トリグリセリド血症、低HDL血症、高LP(a)血症など右に書かれた項目があると閾値が上下すると考えられています。早期からの脂質に対する介入がFHの患者に対して必要であることが分かります。
Nordestgaard B G et al. Eur Heart J 2013;34:3478-3490より改変
出典:https://eas-society.org/wp-content/uploads/2022/12/Nordestgaard_et_al_Eur_Heart.pdf
診断基準は?
- 高LDLコレステロール血症(未治療時のLDLコレステロール 180mg/dL以上)
- 腱黄色腫(手背、肘、膝等またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
- 家族性高コレステロール血症あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(第一度近親者)
- アキレス腱肥厚はX線撮影では男性8.0mm以上、女性7.5mm以上、あるいは超音波による男性6.0mm以上、女性5.5mm以上にて診断します
- 皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含みません
- 早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満で発症した冠動脈疾患と定義します
上記2項目以上を満たす場合に家族性高コレステロール血症と診断します。2項目以上を満たさない場合でも、LDLコレステロールが250mg/dL以上の場合、あるいは2または3を満たしLDLコレステロールが160mg/dL以上の場合は家族性高コレステロール血症を強く疑います。
上記が診断基準となり、2項目以上を満たせば臨床的家族性高コレステロール血症の診断となります。1項目の場合で疑いの場合には遺伝子検査を行い、家族性高コレステロール血症の遺伝子変異がある場合には家族性高コレステロール血症と診断します。
家族性高コレステロール血症「疑い」の遺伝子検査については保険適応となっており、ご希望がありましたら当院の提携病院にご紹介させていただきます。
また家族性高コレステロール血症の診断がついた場合にはその血縁のご家族様も同様に遺伝子変異がある可能性があるため、ご家族も一緒に調べることが推奨されます。
腱黄色腫
アキレス腱肥厚
角膜輪
成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022より
出典:https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/JAS_FH_GL2022.pdf
家族性高コレステロールの治療方法
LDLコレステロールの管理目標値は以下となります。当院では心筋梗塞後、また冠動脈バイパス術後、また家族性高コレステロールの方が多く来院されており豊富な使用経験がありますので不明な点はお尋ねください。
- 心血管疾患の既往がない一次予防で100mg/dL未満
- 心血管疾患があり再度起こさないための二次予防では55mg/dL未満
治療1
体内では主に肝臓においてコレステロール合成が行われており、コレステロールが合成される過程で必要なHMG-CoA還元酵素という物質があります。スタチンという薬は肝臓においてHMG-CoA還元酵素を阻害してコレステロール合成を抑えることで血液中のLDLコレステロールを減らします。しっかりとLDLコレステロールを下げるためにストロングスタチン(ロスバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン)を用います。
治療2
スタチン単独投与で十分な効果が得られない場合にはエゼチミブという薬を併用します。コレステロールは小腸から吸収されますが、その小腸からの吸収を阻害させることで肝臓のコレステロール含量を低下させ、血液中のコレステロールを低下させます。
治療3
それでも目標値を達成できない場合にはPCSK9阻害薬(エボロクマブ)、siRNA製剤(インクリシランナトリウム)を使用します。
PCSK9とは蛋白質分解酵素の1つで、細胞膜上にあるLDL受容体と結合してその分解を促進します。そのため血液中にPCSK9が過剰に存在すると、LDL受容体数が減少し、LDL取り込みが抑制され、LDLコレステロールが上昇します。PCSK9阻害薬であるエボロクマブはPCSK9を阻害することで血中のLDLコレステロールを減少させます。投与方法は2週間に1回の自己注射になります。
一方インクリシランはPCSK9を生成する遺伝情報を持つメッセンジャーRNAを標的としたsiRNA製剤になります。インクリシアンを投与すると肝臓に取り込まれ、肝臓のPCSK9関連mRNAの分解が促進され、それによってLDL受容体が増加して、その結果血中のLDLコレステロールが減少します。投与間隔は初回、3ヶ月後、6ヶ月後、以降は半年おきの医療機関での注射になります。
ただしPCSK9阻害薬とsiRNA製剤に関しては費用が高額になるため、実際にどの程度の費用になるか高額療養費制度も含めて事前に確認してご相談の上処方するか決めることになります。