心不全とは?
心不全はとても幅広いことを表しますが、一言で説明すると「心臓が悪くなって、息切れやむくみなどが出てきて、寿命が短くなってしまう病気」になります。一般的には器質的、機能的な心臓の異常を原因とする症状や徴候があり、心不全マーカーであるBNPもしくはNT-proBNP値が高値(外来ではBNP≧35、NT-proBNP≧125)、または肺または全身のうっ血所見を認める場合となります。
心不全の症状
心不全症状としては
左心不全、右心不全に分かれます。
左心不全の症状
左心不全とは心臓の左心室が悪くなってしまい生じる症状です。収縮力が悪くなった場合や拡張障害などで広がりが悪い場合には左心室に血液がうっ滞し始めてしまうため、その手前にある肺の血圧が上がってしまい、肺うっ血、息切れ、咳などが生じてきます。また収縮力が低下した状態では大動脈から全身へ送る血液量が減ってしまうため、血圧低下や腎機能低下、また一回の心臓の拍出量低下を心拍数で補おうとするため頻脈になったりします。
右心不全の症状
右心不全症状とは心臓の右心室、右心房に由来する心不全症状になります。右心房の圧が上昇するとさらに手前にある上大静脈、下大静脈がうっ滞するため、頸静脈が太く腫れてみえたり、顔がむくんだり、両足が下の方から徐々にむくみ、また体重増加が出てきます。また胸水や腹水が溜まったり、腎うっ血、肝うっ血により、腎臓肝臓の臓器障害が生じます。腸管が浮腫むと腸の動きが悪くなり便秘傾向になったり、薬物の吸収が低下して内服薬の効果が低下したりします。
心不全の時間経過は?
心不全は進行に関してはステージ分類を用いることが多いです。
心不ステージは初期のステージAから徐々に進行してステージB,C,最終的にステージDという段階をたどります。
心不全ステージA
心不全ステージAとは心不全のリスクを持っていますが症状や構造的、機能的に心臓異常は認めておらず、心臓の障害を表すバイオマーカーの上昇がない状態を表します。高血圧、動脈硬化性疾患、糖尿病、慢性腎臓病、メタボリックシンドローム、肥満、心筋症の家族歴などが含まれます。
心不全ステージB
ステージBは前心不全状態と呼びます。心不全の症状はありませんが、次のどれかを認める状態になります。一つ目は駆出率の低下、ストレイ値の低下など左室または右室の機能障害、心室肥大、心房、心室拡大、壁運動異常、弁膜症による不整脈等、構造的心疾患です。二つ目は安静時、負荷時の心内圧上昇、三つ目は心不全の危険因子を持った状態で心不全を表すマーカーであるBNP/NT-proBNPの高値や心筋のダメージを表す心筋トロポニン持続高値の状態です。ただしそれが上昇する疾患である急性冠症候群や慢性腎臓病、肺動脈血栓塞栓症、心筋炎などは除外になります。
心不全ステージC
ステージCは症状を伴う心不全の状態です。つまり構造的、機能的な心臓の異常が原因となる症状があり、BNP/NTproBNP高値あるいは肺うっ血や全身性のうっ血を認める状態です。
心不全ステージD
ステージDは十分な治療を行っていても心不全が改善しない治療抵抗性心不全になります。安静にしていても心不全症状があり、強心薬などのカテコラミン依存の状態であり末期心不全の状態になります。適応を満たしていれば補助人工心臓や心臓移植を考えるタイミングになります。
上記4つのステージが心不全の時間経過になります。とても重要なことは心不全が悪くなって入院した場合、退院時には一見入院前の状態と同じくらい元気に見えますが、入院前よりも一段階必ず悪くなっています。また退院しても心不全のベースが一段階悪くなっているため、次の心不全が悪くなって入院するまでの期間が徐々に短くなります。そのため早期に心不全を疑い発見し、原因をしっかりと調べて、治療も早期に介入することがとても大事です。
当院では症状があるstageCの状態では当然精査加療を行います。無症状でも健康診断で心雑音や心電図で不整脈指摘、また採血でBNP/NT-proBNP高値指摘されるstageBの前心不全状態もしっかりと心臓が悪いところがないか当院で精査し、その後進行しないかフォローもさせていただきます。またstageAの高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、肥満などの生活習慣病の時点でも先を見据えてしっかりと予防の治療を行います。
2025年心不全診療ガイドラインより
出典:https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf
左室駆出率(LVEF)での分類
左室駆出率(LVEF)とは左心室の収縮の程度を表しています。心臓が拡張した状態から収縮した状態で何%の血液を心臓から送り出せたかをパーセンテージで表しています。全ての血液が拍出できればEF 100%となりますが実際は左心室の中の血液が全て出ていくことはないため、100%になることはありません。正常ですとEFは55%以上になります。
EF別によって心不全を分類すると3種類に大別されます。
一つ目はEFが40%以下のHFrEF(収縮能が低下しているreduced EFで読み方はヘフレフ)です。心機能の低下している心不全であり、基礎疾患の治療に加えて薬物療法がとても大事になります。基本の薬は4剤あり、ARNI、β遮断薬、ミネラルコルチコイド拮抗薬、SGLT2阻害薬になります。以前はACE阻害薬、ARBを使用しておりましたがARNIと呼ばれる薬が出てきてからはこちらの方が予後改善効果がしっかりとあるためARNIに切り替えて使用します。これら4剤を「Fantastic Four」と呼び、治療のベースになり、かつ最も大事な治療になります。投与量も可能な範囲内で増量が望ましいです。ここで血圧をみながらベルイシグアトや脈拍のコントロールが不良であればイバブラジンを追加することもあります。
二つ目はEFが40〜49%のHFmrEF( mildly reduced EF)になります。
こちらに対しての薬物療法ではSGLT2阻害薬は必須でARNI、また非ステロイド型ミネラルコルチコイド拮抗薬であるフィネレノンの併用が望ましいというデータが出てきています。
三つ目がEF 50%以上のLVEFの状態で心不全、HFpEF(preserved EF、ヘフペフ)になります。こちらは今まで循環器の中でもなかなか予後を改善する治療薬がなかったところで現在多くの研究が行われていて効果のある薬を探しているところです。近年の報告でSGLT2阻害薬は効果があることが分かってきました。またARNIに関してもEF 57%以下では効果があることが分かっています。ステロイド型ミネラルコルチコイド拮抗薬は心不全での入院を減少させることがわかってきました。
治療薬は日々の研究で内容や新薬が出てくることで変わります。当院では日本のガイドライン、ヨーロッパ、アメリカのガイドラインは元より、その元になる論文を日々アップデートして最適な治療を提供できるよう心がけています。
2025年心不全診療ガイドラインより
出典:https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf